★不公平な「ニュースフィード」がユーザーの習慣を変えた | 黎明期のFacebook③

ニュースフィードはFacebookの1つのゴール
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初期のFacebookについて書いている。3回目のきょうは「ニュースフィード」の登場について。

 

ここまでの年譜をちょっと見てみよう。

Facebook小史

ニュースフィードの登場までのFacebook小史

 

■“問題児”ショーン・パーカーが参画

ザ・フェイスブックの誕生は2004年2月。
同年4月頃にはインターネット界の鬼才、ショーン・パーカーとザッカーバーグは出会い、意気投合している。パーカーは「ナップスター」で無料の音楽用ファイル共有サービスを始め、その後自ら創った会社を追い出されている問題児でもあったが、名うてのベンチャーキャピタリスト(創業期の企業に投資する人)でもある。

 

9月には今日のFacebookの原形に一歩近づく「ウォール」を実装。
同時にいかにもFacebookらしい「グループ」機能も追加した。
翌年の夏休みには高校時代の仲間と共に、ザ・フェイスブックのデータを解析するアルゴリズムを開発している。

 

1年半の間にザッカーバーグの試みは急成長し、05年9月には正式に「Facebook社」が立ち上げている。初代CEOはショーン・パーカー氏。同年10月、友達をタグ付けできる「写真」機能をFacebookに追加した。ウォール、タグ付き写真という一連の新機能がFacebookのソーシャル性を高め、Facebookを飛躍させる基礎を築いたことは前回記した。

 

■ニュースフィードのアイデア生まれる

05年秋というのは振り返って見れば、Facebookにとって重要な転換点だった。

 

人は(ハーバード大の学生のようなエリートたちは)友達のことを気に掛ける。
Facebookに写真をアップロードできるようにしただけのことなのに、そこに「友達をタグ付けできる」機能を追加したことにより、学生たちは夢中になった。
“ソーシャル性の魔法”をザッカーバーグ自身が体感したのである。

 

さて、次の一手は―――
そのアイデアがFacebookチームに生まれたのがこの時期だ。
「ニュースフィード」である。
キーワードは「Facebookにさらなるソーシャル性を」だ。

 

従来のFacebookの根本は「誰かがウォールを書き換えると友達に“変更”が伝えられる」ということだった。ニュースフィードはそれをさらに進める。進めるというより、システム的には「大転換」といったほうがいい。今までは変更の中身までは届けられなかった。だからお知らせが届くや、友達は“相手”のウォールに飛んで行き、それを見た。

 

■パーカーが去りザッカーバーグにCEOに

ニュースフィードはチーム内に激論を生みながら最終的に以下のようにまとまった。
ユーザーそれぞれのウォールに「ニュースフィード」という領域を設ける。
そこに友達の(複数の友達である)ウォールでの変更が、変更した中身ごと知らされる。
今日の用語で表現すれば、「友達のアクティビティ」がニュースフィードに飛び込んでくるのである。

 

こうした案がしきりに検討されたこの時期に、ショーン・パーカーが大麻疑惑で逮捕されるという“事件”が起きてしまった。真実はわからない。しかし初期のFacebookにとっては痛手だった。パーカーは辞任。後任にはザッカーバーグを指名した。

 

これ以降、ザッカーバーグが“永久CEO”の座についた。
取締役会の投票権が5つあるうち、3つまでをザッカーバーグが得たからだ。
立ち上げ早々のベンチャー企業を一人前の企業に育て上げための知恵袋を失ったことは大きな打撃だったが、事実上のザッカーバーグの独裁体制が固まったことは、後のFacebookのユニークでぶれないSNSを構築する上で、ベストな選択になった。

 

■ニュースフィードは発想の転換だ

翌2006年9月、Facebookはユーザーを大学生と高校生に絞っていたのをふつうの大人にまで広げる「オープンレジ(一般開放)」を目前に控えていた。
まさにこの時期に、ニュースフィードを実装した。
ウォールに遅れること2年後の機能追加によって、Facebookは現在見る形に近づいた(ニュースフィードが独立した1ページになるのはもう少し先のことである)。

Facebookの象徴

2004年の誕生以来、進化を止めないFacebook

 

ニュースフィードはただの機能追加でも、拡張でもない。
発想の転換だ。
それまでのユーザーの習慣を180度変えてしまった。
なにしろ“居ながらにして”友達のアクティビティが舞い込んでくるのだから。
しかも、多くの人は気づきもしなかったが、友達のアクティビティは友達全員に届けられるわけではなかった

 

Facebookが重視したのは「交流」だ。
ふだんからウォールの書き込みや写真のタグ付けが頻繁に行われている友達には確実に届けるが、交流がさほどでもない友達には届けない。
差をつけたのだ!

 

これこそずっと心に秘めてきた、予測して配信する機能(ザッカーバーグが開発した音楽プレーヤー「シナプス」のように)の具現化だった。
ニュースフィードには、お得意のアルゴリズムが働いている!

 

■「まるでストーカーだ」

Facebookはユーザーの行動とプロフィール上の変更をすべて蓄積している。
それに対して友達はどのように反応したか、その記録も残っている。友達が関心を示したものを時系列で表示させる。今まではユーザーが友達のウォールを点検して、自分で“掘り出していた”情報だ。それを今度はFacebookが自動的に表示する。しかも各ユーザーごとに特別あつらえだ。

 

まるで自分専用の時々刻々「友達の動向ニュース」

 

これにはユーザーが騒然となった。
革命的に便利になったのに、賛成の声は小さかった。
小さいどころか、むしろ反発の声が広がった。
「友達のプライバシーが表示されすぎる。まるでストーカーみたいだ

 

『ジョージとスーザンが友達になりました』ならまだいいけれど、『ビルが交際ステイタスを変更しました』と表示されれば、ビルの友達なら『既婚から未婚になったということは、離婚しちゃったのか』ということがわかってしまう。
友達のアクティビティが裸になるということは、自分も丸裸にされることだった。

 

圧倒的な非難の声に押され、Facebookはプライバシーの公表範囲をある程度自分で決められるよう、急ごしらえで「プライバシー設定」を設けた。

 

大騒ぎにはなったが、結局ニュースフィードはFacebookに根をおろした
なんといっても、友達のアクティビティはコミュニティーの内部にいる者(Facebookユーザー)が熱心に探していたものだった。公開範囲を自分で制御できるならこの機能は悪いものではないと、多くの人が納得した。

 

■陰の主役・アルゴリズム

騒ぎの中でひとつ忘れられた論点がある。
もっとも重要な論点、知り合いを強固な友達に変えてしまうシステム、そう「アルゴリズム」のことだ。
「友達の動向ニュース」と書いたが、多くの人は、なぜFacebookが正確に自分が関心を寄せている友達を探り当てその友達のアクティビティを届けてくれるのか、には思い至らなかった。

 

なんと大胆ではないか。
濃密な交流をしてきた友達にはより濃密な情報を、あっさり薄いつきあいをしている友達には情報をスルー。ニュースフィードにアルゴリズムを導入することによって、情報にはレバレッジが掛かる。友達に差をつけることにより、交流は本人も気づかないうちに半自動的に密になるし、疎遠にもなる。そうなのだ。
私たちはFacebookによって初めて、自分の周りに“特別な友達の輪”ができる醍醐味を知った。

 

寮の一室から生まれたFacebookは2006年のこの時期、飛躍の時を迎えていた。
1年前にニュースフィードの発想が生まれたとき、ショーン・パーカーもその中にいた。そこにアルゴリズムを組み込むのはザッカーバーグの得意技。両輪がかみ合い、本物の大人のビジネスになるのはもう目前のはずだった。

 

■3段ロケット、最後の推進力

ザ・フェイスブックのローンチはそれなりに華麗だった。
しかししょせんは学生ビジネス。そこにプロらしい息吹を吹き込んだのがパーカー。
彼はつまらない事件のためにFacebookを中途で去らざるを得なかったが、ザッカーバーグはニュースフィードの投入のタイミングを誤らなかった。

 

ニュースフィードは「Facebook」という躍進する3段ロケットの最後のブースターだ。
1段目は機能がシンプルだったプロフィールを一気に双方向メディアの中核に変えたウォール。
2段目のロケットは、ソーシャル性を帯びたタグ付きの写真機能。
そしてアルゴリズムによって動くニュースフィードはFacebookの個性を強化し、さらに今後の方向性までを決定づけた第3の噴射装置である。

 

フェイスブック社が大きくなり、ビジネス社会でも注目を集め巨大化していく中で、社が抱える人材も多士多彩となっていく。これからはザッカーバーグの思いつきだけで社を動かしていくことはできないだろう、たとえ彼が永久CEO(最高経営責任者)だったとしても。

 

しかしザッカーバーグにとってパーカーの時代にスタートし、結局は置き土産となったニュースフィードは、幸運な機能だった。以後ザッカーバーグは、ビジネスの観点から社内に反対意見が渦巻いても、ニュースフィードのアルゴリズムを捨てることはなかった。

 

逆に強化した。
2008年から09年にかけて投稿のシェア機能「いいね!」の機能も実装するなど、Facebookの進化は止まらない。

 

 

ジャーナリスト石川秀樹>■■電本カリスマ.com

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