★ザッカーバーグの思いが独特のアルゴリズムを生んだ | 黎明期のFacebook①

Facebook黎明期
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黎明期のFacebookについて、しばらく書いてみたい。
その後に「Facebookのアルゴリズム」を解説するつもりだ。

 

少々遠回りだ、確かに。でもここを外すとなんとも説明しにくい。
Facebookのアルゴリズムは、私たち日本人にとって奇妙に感じられるはずだ。
ユーザーは「友達」の投稿すべてにフラットに接触できるようになっていない。せっかちな日本人は、「友達の行動(Facebookではアクティビティという)なんて知らせてくれなくていいから、さっさと時系列ですべての投稿を流してくれ」といいそうだ。
だが、そうならない。なぜか。

 

その理由は明らかに創始者、ザッカーバーグの強い思いから来ている。
たったひとりの強い思いからだ。
Facebook前史をたどらない限り”奇妙”と感じる根源にはたどり着けない。

 

この項に限らず、Facebookへの私のインスピレーションは以下に挙げる2冊に強く負うている。
2010年からFacebookを始めた私にはFacebook初期の姿を見ることができない。
それゆえこの2冊を手掛かりにし、想像力をかきたてた。
“インスピレーション”というのはそういう意味である。

【この項の参考文献】
『フェイスブック 若き天才の野望』(デビッド・カークパトリック、訳:滑川海彦、高橋信夫、日経BP社)
『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』(ベン・メズリック、訳:夏目大、青志社)

 

 

■成功したいならマークの“伝説”を知ろう

『Facebook』のことを知りたいなら、そしてFacebookを使って「わたし」や自分の店や会社が、今よりはずっと世間に知られるようになり、“成功の果実”をもぎ取るチャンスが増えるようにと願うなら、「Facebookは米ハーバード大学の学生、マーク・ザッカーバーグのほんのいたずら心と、ちょっとした野心によってつくられた」という、いささか伝説めいた物語をひも解くことから始めなければならない。

 

Facebookには著しい特徴がある。
▼実名による登録、
▼友達の投稿ばかりかアクティビティ(誰と誰が友達になりましたとか、どこどこにチェックインしました、誰々の投稿にコメントしました、などなど…)までを次々表示してくるニュースフィード、
▼簡便かつ奥が深い「いいね!」機能、
▼大げさなくらいに語られてきたバイラル(口コミ)効果、
そして▼日本人ユーザーにとっては不思議で仕方がない「投稿のニュースフィード表示に優劣をつけるアルゴリズム」・・・・。
それらすべての原点が、ザッカーバーグの思いの中にあるからだ。

 

「Facebook」とはどういう意味かご存じだろうか。
「goo辞書」に簡潔に書かれているので引用する。

個人の写真と名前とを掲載した名簿。大学や高校などで、学生がお互いを知ることができるよう学年度のはじめに配布する。印刷物だけでなく、オンライン上の名簿についてもいう。写真名鑑。

 

紙版のFacebook

クールに見せたいザッカーバーグは「紙版フェイスブック」よりはるかに高機能なザ・フェイスブックを創り上げた

 

アメリカの学生は、入学するとこのFacebookを渡される。
ザッカーバーグの在学当時はまだ紙のアルバムだった。
恋や遊びの対象がいないかどうか、新入生たちは懸命に“いい子”を探す。
ルーキーたちばかりではない、寮の先輩たちもFacebookの発行を心待ちにしている。

 

 

■男子学生受けを狙った2つのソフト

ハーバード大学ではFacebookがまもなく電子化されるといううわさがあった。
2003年9月、ザック(ザッカーバーグの愛称)はコンピュータ科の2年生になったばかりだった。いつもプログラミングのことを考えていた彼はある日、「コースマッチ」というソフトウェアを思いつく。

 

男子学生はみな、どんな女の子がどの講義を履修するかを知りたがっている。
コースマッチがすべてを解決した。ユーザーは「講義」をクリックすると受講者一覧を見ることができる。次に「学生」をクリックすると、取っている講義の一覧が現れる。
お目当ての子が何を履修しているか、瞬時にわかる仕掛けだ。
これはハーバードにおけるザックの、最初のヒットソフトとなった。

 

翌月、さらに衝撃的なソフトを開発した。
今度は「フェイスマッシュ」と名付けた。
2人の同性の写真を並べる。ユーザーはどちらがクールか、思った方に投票する。勝ったフェイスが残り、次の“対戦”相手が表示される。
ザックは「僕を振った生意気な女の子をへこませてやるために作った」と学内紙のインタビューに答えているが、どうだろう。

 

ザッカバーグは優秀なハッカーだった(コンピュータや電気回路一般について普通の人より深い技術的知識を持ち、その知識を利用できる人)から、大学のコンピュータに侵入して、女子学生の身分証明写真を盗み出して使ったらしい。
男子学生はフェイスマッシュに熱狂した。けれども大学当局はカンカンになり、ザックは半年間の保護観察処分を受けるハメになった。

 

 

■クールさが価値、ザ・フェイスブック

Facebookを生む前夜の2つのソフトには、できる悪ガキ学生の功名心と、ちょっとした反抗的な気分、そして邪気のないいたずら心が透けて見える。
相次ぐプログラミングの成功で、ザックの心に火が付いた。

 

ひとは人に関心があるらしい。特にハーバードの連中ときたら・・・・

 

成功に学んだ点はそれだ。
自分を処分した大学側はFacebook(写真名鑑)をまだデジタル化できていない。どうやら、プロフィールとしてどこまで盛り込んでいいのか、どこまでならプライバシーで法的な問題を抱えないですむか、を決めかねているらしい。

 

『簡単だ。本人に登録させればいいじゃないか』とザックは思う。
思い立ったら即行動だ。短時間で写真付きオンライン人名録を完成させた。
2004年2月はじめ、学内の学生が交流を図るためのサービスとして運用を開始。
これが今のFacebookのプロトタイプとなった「ザ・フェイスブック(The facebook)」である。

 

登録は学生の本名と、学内連絡用に大学側から学生・職員全員に割り当てられているメールアドレスによって行う。学生は自分の名前と所属する寮、専攻科目、メールアドレス、趣味、政治信条、恋愛対象、交際ステイタスなどをプロフィールに書き込むことができる。

 

写真は1枚だけ掲載できた。
それに、ちょっとしたコメントを書き込めるようにした。
コメントを変えると、すかさずそのことを友達にお知らせする機能も追加した。

 

それともうひとつ、意味深長な「ポーク(poke)」という機能も実装した。
今のFacebookにもある、「あいさつ」といわれる機能だ。
ザックの本音は、「ちょっとエッチな気分もどうぞ」といったところにあったらしい。日本語だと「ようっ」とか「やぁ」とか、軽く会釈をするイメージだが、ハーバードの学生の間では友達申請をする前の一種の“打診”、「君のことに関心があるんだよ」といったサインであると受け止められた。日本語で言えば“ちょっかい”を出すというようなニュアンスだろうか。プライドが高く、でもシャイなところもあって臆病なエリート学生心理を汲んだ、ささやかだが学生気分の機微に通じたコミュニケーション手段だ。

 

ザッカーバーグにとって、自分がつくるソフトウェアはクールでなければならなかった
どうすれば人の心を引くことができるかということは、何よりも大切な価値だ。
後にFacebookは注目され、広告を載せる、あるいはFacebook自体を買収するとか、しないといった騒ぎが起きるのだが、そんなときでもザックの判断基準は「(その選択が)クールに見えるかどうか」だった。

 

 

■稀代の認められたがり屋?!

この当時、ザ・フェイスブック以外にも「フレンドスター(Friendster)」「マイスペース(MySpace)」といったSNSがあった。後発のソーシャルメディアだったにもかかわらずFacebookは勝ち残り、今も急成長している。

 

ザ・フェイスブックを開発した当時、ザッカーバーグはもちろん今日の隆盛を予見したわけではなかった。しかし、他とはまったく異なる発想が彼の中にあったことは間違いない。

 

1つはコミュニティへの信奉、というより熱烈な愛だ。
ハーバード大の学生であることへの誇りと信頼と執着といってもいい。
そのコミュニティではなんでも許され、受け入れられ、かつ希望に満ちている。
超エリートで自己愛の強い集団なるがゆえに、みんな他の学生に対して強い関心がある。

 

2つ目は、理想主義めいて聞こえるが、「個人の尊厳」に対する忠誠心
この世の中を動かすのは、権威や権力、カネではなく個人であるべきだ、という信念。
それはときに「反骨精神」といった形で現れる。
フェイスマッシュでも大学当局の裏をかいて写真を“調達”しているし、ザ・フェイスブックでは当局が二の足を踏んでいることを承知の上で先回りして、ネット版写真名鑑を実現させた。
「どうだ!」といいたくなるような、してやったりの気分。

 

そして第3に、ザッカーバーグの自尊心だ。
ただのSNSでは自分らしくない。何か工夫したい。学生たちから尊敬されたい(女の子にモテたらもっといい)。
みんな、うの目たかの目で異性の動向を知りたがっている。だからまだ不完全なザ・フェイスブックにこんなに連中は夢中になっている。確かに1人ひとりのプロフィールを追っていけばいつか、いかした彼女を見つけられるかもしれない。
でも、個人がしらみつぶしに当たって“発見”しなければならないとしたらクールじゃない。

 

なんとかしたい。
<ひとは人のことに関心がある、それに応えられるシステムにしなければ>

 

結局、彼の親切心(ホスピタリティー)はザ・フェイスブックをただの「交流を楽しめればいいサイト」にはとどまらせなかった。
以後、ザ・フェイスブック(2005年9月20日からは「Facebook」)は進化に次ぐ進化をとげ、人とつながり、さらにつながりを強化する機能を次々付け加えていくことになる。

 

 

ジャーナリスト石川秀樹>■■電本カリスマ.com

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