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★トンデモ判決まかり通る土壌、ムラ社会を支えるエリートとマスコミ

 

新聞広告の見出しにひかれて『週刊現代』(5/24号)を買ってきた。

 

この裁判官はおかしい
91歳認知症夫が電車にはねられ、85歳の妻に賠償命令
実名と素顔を公開する!
原発訴訟でもトンデモ判決の「前科」があった

 

事件は見出しの通り。
4月24日に東京高裁判決が出、翌25日朝刊で各紙はそれなりの扱いで報じた。
反応したのはむしろインターネット環境の方だ。
ツイッターなどで大きな話題となった。

 

普通の人から見てどう考えても理解できない理不尽な判決。週刊誌が裁判官の資質について特集記事を書いた。

 

 

当然、老婦人に同情的で、判決に驚き、怒りの声が上がった。
こんな判決が判例として定着したら、全国に500万人いるといわれる
徘徊老人を抱える家族は大パニックになるだろう。
私だって父には申し訳ないが「施設に入ってもらうしかない」と考える。
しかし、この判決を前にしたら施設側はどうだろう、
「大丈夫、お受けしますよ」とは、言えないのではないか。

 

このような事例で個人(家族)に責任を負わせるのは酷である、
では誰がその責を負うべきか、
大きいところ(JR東海)に泣いてもらうしかない。
それはそうだとしても、法律の根拠はどこに? 
技術的には難しそう、国会はどう対応する・・・・・?

 

■地裁、高裁、どちらの裁判官も資質に問題あり

多くの人が「問題だ」と感じながらも答が得られずモヤモヤしていたこの事件を、
週刊誌は「裁判官の資質」に着目して一刀両断してくれた。
綿密な取材、知りたい情報は洩れなく聞いて、その上で
常識を欠いたエリートたちの出世競争の場と化したこの国の司法を「危うい」と断じている。

 

記事では冒頭、
家族ができうる限りの対策を取りながらも事故が起きてしまったことを解説。
一方、原告のJR東海の立場も「本気の請求」ではなさそうと周辺情報から伝える。
その後に、控訴審判決を出した長門栄吉裁判長を実名で紹介した。

 

やり玉に挙げられた判事はこの面々

 

新聞広告を見たとき実は、「この裁判官ってどっちの裁判官だろう」と思った。
舞台は高裁だが、地裁あっての高裁判決だ。
記事のターゲットは高裁裁判長なのか、地裁(名古屋)裁判長なのか。

二審は地裁判決を支持したものの、請求額は減額した。
一審で認定した長男の責任についても棄却している。
『最悪なのは地裁の裁判官の方なのでは?』と思ったからだ。

 

週刊誌の記事ではちゃんと一審の裁判長のことも紹介していた。
上田哲(さとし)裁判長
東京地裁判事時代に薬害エイズ裁判で安部英医師に無罪判決を出した人物だ。
一方、高裁の長門裁判長は名古屋高裁金沢支部の部総括判事時代に、
地裁が認めた志賀原発2号機の運転差し止めを、控訴審裁判長としてひっくり返した。
週刊誌の見出しの“トンデモ判決”がこれである。

 <2ページに続く⇒⇒⇒

 

■ヒラメ裁判官は上を見ながら仕事

「裁判官がおかしい」記事の後半では、
袴田事件のえん罪や痴漢事件の非常識判決にも触れている。
最高裁を頂点としたヒエラルキーの中で生きる判事たちは
事件や当事者を見るのでなく、ヒラメのように上ばかり見る。
ヤバイ判決を出して上級審でひっくり返され「×」を付けられるより、
「考えないのが出世の近道」とする習性・・・・・。
この国の司法の現場はご都合主義でひ弱だ。

 

記事の最後で、一審、二審にかかわった判事たちを顔写真付きで紹介した。
判決から2週間足らずでここまで掘り下げたのはだれだろう。
おそらくはチームだったと思うが、記者たちの名前を聞きたいくらいだ。
普通の市民の側に立った取材は小気味よかった。

 

それに比して、大手マスコミの続報はどうだったろう。
新聞でも最近は記事に記者の署名を入れている。
責任感と「事実を掘り下げる者としての誇り」の象徴だ。
大きな“権力”であり、読者からの期待は大きい。

 

この判決を見て、記者もまた「おかしい」と感じなければいけない。
しかし感じなかったんだろう。
記者もまた“ヒラメ”になったか?
それとも「わがコト」と感じらるみずみずしさを失ったか。

 

記者が書く記事には、常に「私が当事者なら」の思いがなければならない。
現場の記者が事件慣れしすぎているのではないか。
自分たちを「エリート」と勘違いしているのかもしれない。
そうだとすれば、その病理は官僚と化した裁判官たちと同じだ。

 

■同質の階層に巣くう者たちの危うさ

アホな判決を下す裁判官たち、非常識がまかり通る司法行政は危うい――
週刊誌の記事はその問題意識からスタートしている。
私はその上に、マスコミも危ういのではないかと思っている。

 

同じ難関司法試験を通った検察と裁判官。
彼らがつくっているのは司法の冠を付けた“ムラ社会”である。
国の官僚も同じ、また少壮国会議員たちにも同じ匂いを感じる。
そして大手マスコミの記者諸君にもだ。

 

同程度の階層社会に生まれ育ち、
高校、大学も似たり寄ったりのエリート校。
同世代の中では常に「勝ち組」の側にいただろう。
似ていない方がおかしい。

 

しかし、似ていてはダメなんだよ、本物の記者になるには。
『俺はなぜかあの連中と波長が違う』ようでなければ。
違いは簡単、勝つ側の発想をうのみにしなバランス感覚だ。
両当事者の声をきちんと聴く姿勢、ということに尽きる。

 

週刊誌の記事をきょうはベタほめした。
今まで書かれていないことに切り込んでいるからだ。
100%正しいかどうかはわからない。
両裁判長の直接の談話は入っていない(取れなかったのだろう)。

 

その点を割り引いて読んでも、この記事は
普通の人が知りたいと思うことにずいぶん近づいた。
マスコミ各社が調べようともしなかった視点だ。
大マスコミは週刊誌に一歩も二歩も後れをとっている。

 

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ジャーナリスト石川秀樹>■■電本カリスマ.com

石川 秀樹: