こんな所に来てまで考えなくてもよさそうなものだが、
『ハッ』と思い当たる節があったのでメモしておく。
「こんな所」というのは東京ディズニーランドである。
子供たちが成長してからは行く機会がなくほぼ四半世紀ぶり。
長女が昨年「ホテルに泊まってディズニーに」と言いだした。
それで8か月も前に予約して、ようやくこの日となった。
■パレードの陣取りで思わぬ“発見”
ディズニーシー、ランドとも事業をやる人にはネタの宝庫だ。
でもヒント集は言い古されていて、今さら書くまでもない。
私も仕事のことを考えず、楽しむつもりでここに来た。
2日目、ディズニーランドで昼前のパレードを待っていた。
パレードを地面に座って観るというの今のスタイルらしい。
午前10時半頃、すでに場所取りが始まっている。
妻と娘と長男がレインジャケットを敷物にして陣取った。
私は地べたに座るのが大の苦手なので、後方に控えていた。
さすがにお尻が痛くなったらしく女性陣が買い物に立つ。
長男が留守番の形で4人分の“陣地”を見張る形に。
風で敷物が飛ばされないよう私のリュックを右端に置いた。
長男は所在なさげに左端に座っている。
リュックの右隣はシートと荷物があるだけで、人はいない。
パレードの道は両サイドがどんどん人で埋まっていく。
見るつもりのない人はその道を足早に通り過ぎていく。
■
目的地が近づくと当然、道から外側に出なければならない。
見ていると、次々に私たちの“陣地”をまたいで人が脱出していく。
まだパレードまでは時間があるので沿線に添って人の出入りが激しい。
わが陣地は、外から内側に入るための通り道にもなっている!
『失礼なやつらだ、俺のリックをまたぎやがって』と、
私は内心カリカリし、何も言わない息子に何か言いたくなった。
だが、やめた。
ひらめいたのだ!
わが陣地の地上権は失われ、今や“通り道”になっているが、
通りやすい理由がいくつかあるわけだ。
■「通り道」は逆に考えれば商売に有利
人を避けて横切るにはある程度の空間が必要だ。
空間は水平の距離だけでは不十分で、高さも大きな要素。
私のリュックはぺしゃんこなので何の障りにもならない。
“番人”は知らん顔だから怒られる気遣いもない。
<安心して通れる>と一瞬でわかる状況が揃っていた。
だから“通り道”になった。
私物を跨がれる気分はよくないが、ヒラメキで帳消しだ。
<人を呼び込めている! これって、商売の鉄則だよ>
視点を変えれば、まさに「人が通ってくださっている」!
商売は人が来てくれてナンボだ。
来て、商品に目を止め、触り、そして何人かが購入に至る。
わが家の陣地で、その最初のプロセスができている。
これを研究しない手はない。
商売がうまくいっていないとは、どんな状態か。
これほど人であふれているのに、私のところには来ない。
それはなんと悲しい状態だろうか。
来ない理由は必ずある。
社長の私は、人が通る(通りたくなる)仕組みを作らなければならない。
コンビニは人口比で一定数の来場が計算できる。
それが仕組みだ。
買い物を分析して、品物をそろえ購入につなげる。
全国どの店でも何があるか想像できる、これが安心感だ。
一方、勝てなくなる理由も陣取りが教えてくれている。
1列目がほぼ埋まる頃になると、2列目もポツポツと埋まる。
陣地の右後ろに若い夫婦が座った。
が、やや距離が離れているので人をさえぎる効果はない。
またしばらくすると真後ろに2人、これで2列目が堅固になった。
これでもう人は、(よほど図々しくなければ)跨げない。
行き来する人並みはピタリと止まった。
商売でこういう状況になったときにはヤバイ。
状況は変わったのだ、別の手を考えなければいけない。
流れがこっちに来ない理由――
①オーナーが高飛車(番人が近づくなオーラを放っている)
②もともと時流をつかんでいない(人の来ないところに座っている)
③障害物の背が高い(商品に魅力がない、高価)
④環境が変わった(ライバルの出現!後列の在り様で事情一変)
<2ページに続く⇒⇒⇒
■進化するディズニーのキャラクター
さて、私の目下のメインの仕事は「電本館あるじ」である。
私の電本(電子書籍)ビジネスは、ディズニーに遠く及ばない。
パレードがオリエンタルランド(ディズニーの運営会社)なら、
「電本館」は沿道にわずかな一角を占めているわが陣地。
この人波の万分のいくつかでも呼び込まなければならない。
ディズニーランド、シーとも大成功しているビジネスだ。
2014年3月期決算は売上4,735億円、30周年記念で飛躍した。
1年で来場者は3,130万人、国民の4人に1人だ。
新規顧客が多く、リピーターはさらに多い。
客単価のアップ、ホテル事業も成功し死角なしだ。
30年間、絶えざるイノベーションを図りここまで来た。
「ディズニー」というビジネスに非の打ちどころはないようだ。
だが、子細に観察すると弱点がまっくないわけでもない。
ショップは時代の流れや流行により浮沈がある。
(サファリ関係の店は個性的なのに閑散としていた)
アトラクションも人気に極端な偏りがある。
この辺はマニアが大勢おり、素人論評は控えた方がよさそうだ。
ディズニー成功のカギは間違いなく「進化」だろう。
映画で新しいキャラクターを創る。
そしてヒーローには新しいアトラクションを用意。
一方では“古典”も大事にし、ミッキーはいまだ不滅のキャラ。
「眠れる森の美女」も装いを新たにしそうだ。
■電本(電子書籍)はアナログなビジネスだ
こうしたディズニー商法には舌を巻くばかり。
スモールビジネスには何の参考にもならないと思ったが、
旅の最後「クリッターカントリー」でヒントをもらった。
ここの“超人気”は滝にダイブするスプラッシュ・マウンテン。
でも「わが意を得たり」と手を打ったのはそれではない。
■
カヌーだ!!
名前は「ビーバーブラザーズのカヌー探検」という。
1ダースほどの人で櫂(かい)をこぎミニ湖を1周する。
これが地味ながら一定のお客さんの心をつかんでいる。
ディズニーのアトラクションにはほとんど自ら成す部分がない。
ほとんど機械がやってくれる(人は乗っているだけ)。
カヌーは違う、真逆だ。
全員が息を合わせ、10分間こぎ続けなければ帰ってこれないのだ!
ぜんぜん今風ではない。
前後に2人、先導役が乗る、解説者でありリーダーでもある。
話も肉声、マイクなし、でも巧みだ。
これって人手がいり、コストもかかり効率が悪い。
しかしまあ、実に人間くさい。
それで一定の人が行列するのだろう。
同じ湖では豪華蒸気船の「マークトゥエイン号」も走る。
こちらは3階建てで壮観、大量動員もできて長い人気を誇る。
同じ水がテーマでもブルジョアと貧乏開拓者の違いがある。
この辺がディズニーストーリーの巧みさで、万人を満足させる。
でも、私の胸にズシーンと響いたのはカヌーの方だ。
手間暇も掛かるが元手いらずで、客層を絞ることができる。
電本(電子書籍)は一見、最先端だが
「本を造りたい人」を見つけるというのはアナログそのもの。
編集にも紙の本と同じ時間を掛けるからカヌーに似ている。
その割にというか、だからこそだが、儲けも少ない。
著者発掘が念願だが、スピード感が出てきにくい。
しかしカヌーは妻と探して、ようやく乗ることができた。
個性的、肉体労働、汗をかくが風がさわやか、達成感がある。
だから、探してでも来てくれるお客さま、ファンがいる。
その魅力を人にどうやって伝えていくか、
カヌーを電本(電子出版)に置き換えて。
それこそが社長としての自分の仕事のようである。
パレードや人気アトラクションよりカヌーの方がうちらしい!!